Chienomi

私の理想のキーボード HUNTSMAN V2 TKL

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「HUNTSMAN MINIと同じリニアスイッチを使ったテンキーレスキーボードが欲しい」とずっとずっと言い続けてきた。

そしてついに、そのようなキーボードであるHUNTSMAN V2が発売され、当然のように購入した。

これは私にとって究極の、理想のキーボードであり、100本近くに及んだ私の理想のキーボード探しの旅はここに終結した。

HUNTSMANシリーズ

ゲーミングデバイスで知られるRazerのキーボードである。

アクチュエータはメカニカルだが、スイッチは光線を用いたオプティカル方式となっている。 フィーリングの調整がしやすいメカニカルアクチュエータと、動作が安定し接触のないオプティカルセンサーというわけである。

アクチュエータとセンサーは混同されやすい。 例えばRealForceはスイッチは静電容量スイッチだが、アクチュエータはラバードームとスプリングである。 VERMIROはスイッチは静電容量スイッチだが、アクチュエータはメカニカルである。

スイッチを「感触」として理解することはできないから、キーの感触の話をするならばアクチュエータについて述べなければならない。

例えばメンブレンスイッチは文字通り薄い「膜」に過ぎない。 キーの底がシートを叩く感触は感知できないし、そもそもスイッチの上にキーを置いただけではキーは動かない。

静電容量スイッチも同様で、それが何かの感触を生むことはない。メンブレンスイッチと違って静電容量スイッチは接触を必要としないので、感触があるわけがないのだ。

メカニカルスイッチに関しては、メカニカルアクチュエータの中にスイッチを組み込んだ機構であるから、それらは一体である。 ただし、VERMIROの静電容量スイッチを使ったキーボードはメカニカルアクチュエータと静電容量スイッチの組み合わせであるし、HUNTSMANはメカニカルアクチュエータとオプティカルセンサーの組み合わせである。 このため、メカニカルアクチュエータとスイッチは分離可能である。 実際に行っているものは知らないが、アクチュエータとして機能しないメカニカルスイッチも可能ではあろう。

スイッチが問題になるのは「認識の挙動」である。 ゴースト、リピート、耐久性など特にゲーミング分野で問題とされる「キーが実際にどのような動きで入るか」を気にする場合、スイッチについての議論がなされる。

HUNSTMANがメカニカルアクチュエータとオプティカルセンサーを組み合わせたものであるというのは、つまりアクチュエータとしてはメカニカルアクチュエータに満足するが、メカニカルスイッチの機能には満足しないのでより改善されたスイッチを組み合わせたもの、ということになる。

HUNTSMANシリーズのスイッチ

HUNTSMANシリーズには2系統3種類のスイッチがある。

2系統はクリッキーとリニアである。 一般的なCherry軸では、それぞれ青軸と黒軸(または赤軸)が持っている特性に属する。

まず、一般的なCherry軸について簡単におさらいしておこう。

Cherry軸の基本は4mmストローク・2mmアクチュエートである。 この仕様は長年一般的なデスクトップキーボードの仕様であり、オーソドックスなメンブレンキーボードにおいてもおよそ同様である。

近年はラップトップが主流であることから、デスクトップコンピュータに付属するキーボードはこれよりもショートストロークな傾向があり、3〜3.5mmストロークで1.3〜1.7mmアクチュエートが一般的となりつつある。 そのような環境を反映したCherry MX製の「スピードシルバー」と呼ばれるものは3.2mmストロークで1.0mmアクチュエートとなっている。

このあたりキーボードの歴史が詰まっている。 まず、しっかり押せる4mmというストロークと、ある程度沈んでからもう一段押し込むことで機能する2mmアクチュエートというのが「相応しい」という結論に至るまでの歴史があったわけだ。 そしてこの動作はおよそ45cN程度が望ましいという結論に至る歴史があった。

ただ、これに関してはもう少し重いキーボードが好まれてもいる。今でも4mmストロークを持つメンブレンキーボードのキー荷重は55cNあたりのものが多い。 重要な点は、指の勢いを止めながらスイッチは入るようにするということだ。これに相応しい荷重ということで、Cherry MX青軸は60cNと結構重い。

だが、感覚的な話をすると、60cNの青軸は結構軽々しいフィールである。クリック感を頼りにすると吸い込まれるように簡単にスコンと入るからだ。実際のタイピングでは割と力が入るということである。

一方、黒軸もまた60cNである。ただ、このリニアキーボードというのは歴史的に見れば異なる枝であると言える。 「指を乗せて沈み、押し込んで入る」という動きを元に2mmストロークがあり、60cNがあるというのに対して、黒軸はアクチュエーションポイントの60cNが最大ではなく、より奥に最終的には約90cNを発生する。 だが、この話では「2mmポイントで60cN」ということが適切なのかどうか、ということが怪しい。

リニアキーボードは通常カチッとした感触を頼りにキーをタイプするのに対して、その感触に相当するものがない。 そこで重いキーを用意すれば、普通の指の力では押しきれないから反発によって留まることになる。あるいは、底付きによってそれ以上は押し込まなくなるだろう。

ここでひとつ問題がある。底付きは指に対する負担が非常に大きいのである。 リニアキーボードはこの点において優れている。通常はアクチュエーションポイント付近が最大荷重となるため、大きな力がかかった状態でそこを通過する。そうすると勢いどうしても底付きしやすい。 だが、リニアキーボードの場合アクチュエート後荷重は増大するため、底付きを防ぐタイピングが可能である。

理屈の上ではそうなのだが、実際にやると案外むずかしい。 Cherry黒軸キーボードでそんなふわふわしたタイピングをしようとするとスイッチが入らず入力漏れが発生する。 逆に確実にスイッチを入れることを意識すると底付きしやすい。

Cherry赤軸キーボードは最大荷重が65cN、アクチュエート荷重が45cNとなったものである。 ほかの軸と同程度の力で作用するようになったため、黒軸の扱いづらさが消えて普通になった。一方で、勢いがあれば65cNは到達するため底付きは発生しやすくなっている。

これによってラップトップのパンタグラフキーボードのような感覚で打ってもそんなに問題はなくなったのだが、本当にその感覚で打つと2mmという「深さ」に届かないことがある。そこで本当にパンタグラフキーボードの感覚で打てるように1.0mmとアクチュエーションポイントを非常に浅く設定したのがスピードシルバー軸である。 キープロファイル自体も小さく設計されており、パンタグラフキーボード的な感覚により近い。だが、30cNで立ち上がって1mmで45cNになり、3mmで80cNに至るというものであるから、「硬さ」を感じる場合もある。

こうした赤軸を経由してスピードシルバーに至った新しいキーボードのトレンドはさらなる「ベスト」を求めて試行錯誤がなされた。 これは比較的落ち着いたタクタイル感をもつキーボードとは違う、リニアキーボードという新しい可能性の追求でもある。

HUNTSMANキーボードに採用されたのはふたつのスイッチだ。

ひとつは、1.5mm/45cNでアクチュエートするクリッキーフィーリングのもの。 もうひとつは、1.0mm/40cNでアクチュエートするリニアのもの。 キーストロークはいずれも3.5mmで少し短め。

クリッキーフィールのものは割と普通で、リニアはスピードシルバーと比べると「5cN軽い」という話なのだが、この5cNの違いがとんでもない違いになっている。 節度なんてものとは無縁の異様な軽さなのだ。1mm下げれば入るというキーであるから、本当に「ちょっと触っただけ」でキーが入る。RealForceには35cNアクチュエートのものもあるが、それよりもずっと厳しい。

押すという感覚なしに入るため、ゲームでは良いかもしれないが、タイピングに使うのは誤打を回避するのが難しくかなり厳しい。 バウンスも軽いため指でちょちょっと触れるようなタイピングになるのだが、相当な訓練が必要。服の袖で押してしまうことすらある。

また、クリックを必要としないリニアキーボードの場合底打ちさえしなければ静音な傾向にあるのだが、このリニアスイッチ、かなりうるさい。底付きまですると多分、Cherry青軸よりうるさい。

このスイッチを採用したHUNTSMAN TEも持っているのだが、「プログラミングを含むタイピングで使う場合、ミスタイプが多すぎてかなりストレス」というのが私の感想。 私にはとても使いこなせなかった。

Razerとしても「やりすぎた」だったのだろうか。HUNTSMAN MINIで「第2世代」のリニアスイッチが投入される。 1.2mm/45cNアクチュエートと、スピードシルバーよりも軽かった初代に対し、スピードシルバーよりも少し深い仕様になった。 なお、48cNという表記がなされているサイトが多いのだが、公式では45cNになっている。立ち上がりも35cNでスピードシルバーよりも少しだけ重い。最大は65cNであり、奥で一気に重くなる感触のないものになっている。

こうなると数値上はスピードシルバーとほとんど同じに思えるのだが、この感触は実際には極上である。

摺動感のないスッとした動きはRealForceとよく似ているが、タクタイル感を持つRealForceと違いリニアアクチュエータであるため、どこまでもスッとした動きのまま入る。 そして明確に押す感触のあるRealForceと違いスッと下がるだけである。タクタイル感に頼っている人には不安な感じがあるかもしれないが、1.2mmで入るため、「押した」という感触があるのであればそのキーはまず間違いなく入っている。 これが絶妙で、クッとした抵抗感の発生を感じる時点でキーが入っており、キーを軽く叩く動きさえあれば確実に入る。ラップトップのキーを叩くくらいの感覚があれば十分過ぎる。 黒軸や赤軸だと深さを感じるが、これはそのようなことはない。

リニアキーボードで底付きしないようにタイピングするには、独特のふわふわしたタイプを身につける必要があるものだが、このアクチュエータに関しては自然なタイピングで浅く打つようにすれば問題なく底付きせずにタイピング可能だ。

このスイッチは60%キーボードのHUNTSMAN MINIに搭載され、今回HUNTSMAN V2シリーズが登場したことでこれにも搭載された。

HUNTSMAN V2

前述のオプティカルセンサーとメカニカルアクチュエータを組み合わせたHUNTSMANシリーズの中で、上位モデルとなるシリーズの第2世代モデルである。 光の強さによる「押し下げ度合い」を識別して動作させることができる「Analog」をトップモデルとし、フルキーボードとテンキーレス(TKL)キーボードの計3モデルをラインナップする。

リストレストが付属するのが特徴。TEやMINIには付属しない。

V2となった大きなトピックスは、リニアモデルが第2世代リニアアクチュエータを搭載したことである。 使いこなすのが非常に難しい先代のリニアアクチュエータに代えて、扱いやすく静音な第2世代アクチュエータを採用したことでシリーズはより洗練された。 なにより、HUNTSMAN MINIに載っていたこの第2世代リニアアクチュエータは非常に評価が高く、「最高のキースイッチ」(スイッチではなくアクチュエータだが)と評する人も多かった。

だからこそ、人を選ぶ60%キーボードでなく、フルキーボードやテンキーレスキーボードでの採用を待望する人が多かったわけである。

このような人(私を含む)からすると、HUNTSMAN V2 TKLというキーボードが特殊な意味を持つのではなく、そのアクチュエータとテンキーレスキーボードの組み合わせを欲していたわけだ。

ちなみに、「TKLを選ぶ理由」を気にする人も多いと思うが、「カーソルなどから右はセンターに対して右にあるもの」であることが挙げられる。 キーボードのキータイプ面がセンターになるため、カーソルはそもそもセンターより右にある。テンキーがある場合、ここからさらにテンキーが右にある。 そうなるとマウスはより遠い右側に配置する必要が発生する。 また、キーボードスライダーなどを用いてキーボードにちょうどいい幅の場所に配置する場合、キーボードがセンターに対して左側によっている状態になり、人間をセンターに配置できなくなってしまう。 これがテンキーがないTKLであればもう少し自由度が上がる。理想は60%キーボードだが、そうなると今度は使い勝手がだいぶ犠牲になる。

レビュー

私がこのキーボードをわざわざ買った理由は「小説を書く」にある。

今私は「スペードとメイド」という作品を執筆しているのだが、この作品はかなり頭の中では早く展開している。 そうなるとRealForceだとどうしても出力速度が足りず差が開いてしまい、頭の中がこんがらがる。 結果的に創作を阻害してしまう。

だが、HUNTSMAN MINIキーボードはこのような執筆において頭の中を滞らせずに出力することができる。 最高速も速いが、コンスタントなタイピングにおいてRealForceと比べても速度は随分と速い。 なお、Libertouchは速度に合わせようとすると随分とがしがしとタイプすることになる。

実際、「異世界魔神と神々の籠」では最後20000字ほどを一晩で書き上げる力となった。

そのフィーリングについては、RealForceとLibertouchの良さを足して2割増にしたようなものである。

私はフィーリングがよく似たこの2台を、「キーボードを意識せず疲れにくいRealForce」「タイピングが心地よく楽しいLibertouch」と使いわけている。 HUNTSMAN MINIキーボードのタイプフィールは、RealForceと比べれば多少タイピングの存在感はあるが、RealForce以上に疲れず、Libertouch以上に楽しいものになっている。 どちらも最高峰の打ち心地を持つキーボードだが、それを凌ぐ極上のタイピングを提供してくれる。

もちろん、ゲームに対応した性能でもある。 Libertouchではゲームができないため、ゲームする場合は2本用意することになるが、HUNTSMANは最高峰のゲーミングキーボードであるからそのような必要はない。

ただ、Unicompキーボードの代わりにはならない――あれは大きな力を必要とせず、しかしカッチリとした重厚なタイピングフィールを提供するものであるから、それとは全く違う種類のものだ。このキーボードはあくまでRealForceやLibertouchのような軽快なキーボードにおける至高である。

そのようなありとあらゆるキーボードの中で最高といえるタイピングフィールを提供するHUNTSMAN MINIだが大きな欠点がある。 それは60%キーボードであることだ。 60%キーボードはカーソルオペレーションに関わるキーや、Fキー、DeleteキーをFn併用とする必要がある。BlackPawnキーボードはカーソルキーを持つ優れた60%キーボードであるが、そのようなものは稀だ。 執筆においてもプログラミングにおいても非常に多用するこのようなキーがFn併用になるのはかなり使いづらい。もちろん、HHKBを愛用する人がいるように、そのようなことは気にならないという人もいるだろうが、私はかなり生産性を犠牲にする。

また、HUNTSMAN MINIにはさらなるいくつかの問題がある。 特にFnキーの問題は大きく、右AltとCtrlの間にあるのだが、この位置自体がかなり押しにくい場所であり、カーソル移動に併用するキーとあまりにも近すぎる。 この問題の妥当な解決策は、Fnキー(Hypershiftキー)を変更することだ。といっても、60%キーボードなので候補は非常に少なく、EisuToggle(CAPS)か、無変換あたりになる。US配列キーボードの場合はさらに選択肢は狭い。

もう少し凝った解決策は、Hypershift配列をリマップしてカーソルオペレーションキーを左に持ってくることである。 しかし、そもそもこの割当が通常はできないことと、既に左側にはキーが割り当てられていることから、あまり穏当な方法ではない。

そうして60%キーボードをいくらか使いやすくすることはできるが、そもそも60%キーボードを好まない人が満足するようになるということではない。 根本的な解決策は60%キーボードではない、フルキーボード、ないしテンキーレスキーボードを使うことだ。 ところが、残念ながらこの至高のキースイッチは60%キーボードのMINIだけのものであった。 フルキーボードのHUNTSMANや、テンキーレスのHUNTSMAN TEは第1世代スイッチを採用しており、フィーリングが違ったのだ。

少なくない人が、この素晴らしいフィーリングを知って、しかし60%キーボードではない通常の配列で使いたいと熱望した。 私もその一人である。そしてHUNTSMAN V2によってついにその時がきたわけだ。

HUNTSMAN MINIとHUHNTSMAN V2 TKLの主たる違いは60%キーボードかテンキーレスキーボードかということでしかない。 あとは、MINIには白モデル(なかなか美しい)があるがHUNTSMAN V2にはないことと、HUNTSMAN V2にはリストレストが付属することだ。

よって打鍵感に関する説明はHUNTSMAN MINIについて述べた通りだし、使い勝手に関してはよくあるテンキーレスキーボードのそれだ。 なお、ファンクション関連としてはボリュームコントロール、メディアコントロール、

その他他とも共通する特徴として

  • 1677万色ライティング, Razer Chroma対応, 19段階輝度調整(非点灯を含む)
  • 0.2msの反応速度 (ゲーム向けの性能)
  • 8000Hzポーリングレート (感じ取ることができない)
  • 高耐久キースイッチ
  • カスタマイズ可能なHypershift配列
  • マクロ機能
  • ゲーミングモード
  • 脱着式本体側Type-Cケーブル
  • フローティングタイプ
  • 2層化されたPBT(ポリブチレンテレフタレート)製キーキャップ
  • 静音

が挙げられる。

なお、Linux上ではOpenRazerはHUNTSMAN V2 TKL 日本語配列を認識しない。 MINIも同様であるため、おそらく日本語配列が別のプロダクトIDを持っているのだろう。